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東芝のヘリウム入りHDDはHGSTの「HelioSeal」採用か? [ハードディスク]

東芝は昨年12月8日と今年7月31日に、データセンター等エンタープライズ向けと一般向けNAS用の14TBハードディスクを発表している。

世界初、CMR方式で記憶容量14TB を達成したニアラインHDDのサンプル出荷開始について
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/company/news/news-topics/2017/12/storage-20171208-1.html

記憶容量14TBのNAS向け3.5型HDDのサンプル出荷開始について
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/company/news/news-topics/2018/07/storage-20180731-1.html


これらは共にヘリウム充填型のハードディスクで、プラッタ枚数は9枚にも達する。


ここで気になるのはヘリウムを密封する方法である。

原子サイズが極めて小さいヘリウムは、生半可な密封ではわずかなスキマ、そう、分子のスキマからでも漏れてしまう。
例えば二酸化炭素ガスが漏れないようなゴムとか樹脂製のパッキンを使った密封容器を使っても、ヘリウムの場合ゴムや樹脂を構成する分子のスキマから漏れてしまうのだ。
だからヘリウムを密封する容器にはアルミや銅、真鍮などの金属製パッキンが必要と思われるが、ハードディスクに金属製パッキンを使うには3.5インチ筐体に2.5インチディスクを収めるような設計でもない限り無理があるし、金属製パッキンは温度変化による金属部品の変形に対する追従性も悪いので、複雑な形状でかつ密封が必要な断面積が大きいハードディスクでは場所によって変形量が大きく異なるから尚更採用が難しい。

こうした事情から世界で初めてヘリウム充填型のハードディスクを実用化したHGST製のハードディスクは、筐体とフタのシールには溶接を用いている。

まあ、仮に金属製のパッキンを使う事でネジ止めによるシールを達成達成できたとしても、ハードディスク一個のフタを止めるのに数十本のネジが必要な気がするので、もしそうであればあまりにも非現実的と言わざるを得ない。

要は小さなハードディスクの大きな断面のスキマを、ヘリウムが漏れないように塞ぐというのはかなりのハイテクなのである。


以上の事から、東芝が自社でヘリウムを密封できるハードディスク筐体を開発したとは考えられない、と思った。

そこで東芝製ヘリウム充填ハードディスクの写真を良く見ると、HGSTのヘリオシール採用ハードディスクの外観と非常に良く似ているのである。

th_he_hdd.jpg

恐らく技術を買ったかなにかして筐体の基本設計や部品等は同じものを使っていると思われる。

・・・あくまで私の想像なので、まったく違う場合も考えられるが。


MG07ACA(アヒル先生の画像検索結果)
https://duckduckgo.com/?q=MG07ACA&t=ffcm&iax=images&ia=images


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二次元磁気記録(TDMR) [ハードディスク]

今年になってから気付いたのだが、ハードディスクの記録方式には“ Two-Dimensional Magnetic Recording (TDMR) ”、日本語で書くと「二次元磁気記録」というものがあるらしい。(二次元磁気記録自体は少なくとも10年以上前に考案されている)

この二次元磁気記録(以下TDMR)は現在、次世代のハードディスク用高密度記録方式の一つとして候補に上がっていて研究が進められているようだ。


昨年以前は単に気付かなかっただけのか、ここ数ヶ月TDMRに関する情報をよく見かける。
そのおかげで興味を持つようになったが、最初はそもそもハードディスクは平面にデータが記録されているのに、一体何が二次元なのかと思った。が、どう考えてもそれは違うはずなので、この点について説明がされた記事を探したが、私の求める説明が記された記事が無い。

あったとしてもそれは単にそういうものがあるという素人向けの記事と、専門家に向けた「それが何か理解していることが前提」の記事ばかりなのだ。

仕方がないのでこれらの記事をたくさん調べる事で素人の私にも理解出来る話の断片を拾い集め、なんとか理解出来た。理解してみると、“二次元磁気記録”という言葉だけでイメージが湧くのが普通と思えるほど単純な話だった。


私がTDMRについて理解した内容を説明すると、まず比較対象として、現在のハードディスクはトラックという円周上に区切られた線上へ一列にデータが記録されている。「線上に一列」なのだから、これは一次元記録である。

tdmr2_hdd.png

身近にあるもので例えると「バーコード」と同じ記録方式。

tdmr1_bcqr.png
説明は不要だと思うが、左がバーコード、右がQRコード。

一方で二次元記録はQRコードのように、縦と横(或いは斜め方向にも)に意味を持たせて0と1を並べる。同じ面積に単に0と1を一列に並べるよりも数倍の記録密度が得られる記録方式であり、これをQRコードのような印刷ではなく磁気で記録するのがTDMRであるということだ。

では同心円状のトラックへ横一列にしかデータを記録できないハードディスクでどうやって二次元コードを記録するのかというと、瓦記録方式(SMR)で一列ずつ、複数のトラックに渡って二次元コードを記録していくらしい。以下にそのイメージを図にした。

tdmr3_tdmr.png

このような方法で記録していくので、TDMRはSMRとセットで考えられている。言い換えるとTDMRとはSMRの一種であると言えるが、そもそもSMR自体がTDMRの技術を単純化して生まれたものであるようなので、「SMRはTDMR実用化への過渡的な技術」という理解が正しいのかもしれない。(SMRは2008年にTDMRとして報告されたものの記述に含まれている。)

物理的な記録方法がSMRと同じTDMRだが、違う点は複数のトラックの集まりである「ブロック」全体が一つの二次元コードになっている事。物理的な記録方法がSMRと同じである以上、記録されたデータを読むにはトラック内のセクタに対し通常のハードディスクと同様にアクセスするという事ができず、ブロック全部を読み込む必要がある。

従ってブロック内の一部のデータしか必要がないとしても、ブロック全部を読み込まなければならないために通常のハードディスクよりもアクセス速度が遅くなる。

例えばブロック内のトラックが8段なら、円盤が8回転するまでデータを取り出せないために単純計算で8倍以上の時間がかかるという事になる。断片化した情報が複数のブロックに分散していたら、かなり酷いことになるだろう。だがこうしたケースは恐らく、ハードディスクコントローラとファームウェアのプログラムによって極めて少なくなるよう、データの再配置がされるはずだと思われる。
ちなみに書き込み時はSMRという書き込み方式である以上トラックのデータを上書きするため、ブロック内のデータ全てを一旦読み込んでから書き戻す必要がある。従って、データの書き込みにはTDMRでもSMRと同じかそれ以上の時間が必要になるはずだ。

このように、物理的な読み書きに通常のハードディスク以上の手間がかかる上、読み書きするデータには常に二次元コードの生成・復号という手間が上乗せされる。この生成・復号にかかる計算は、汎用CPUコアを使う現在のハードディスクコントローラでは荷が勝ちすぎていると私は考えるが、常に一定のルールで計算されるのならば専用のハードウェアで行うという方法がある。

消費電力の観点で見ても専用のハードウェア回路で計算した方が有利と思われるので、コスト度外視で速度を追求できるのならば、二次元コードの生成・復号の一部又は全部の計算用に専用アクセラレータとしてハードウェア実装する事が必要ではなかろうか。なおこの類の問題への答えとしてはすでにHGSTがホストマネージドSMR、つまりSAS(SATA)コントローラやコンピュータ本体のCPUでデータの処理を行う方式が存在する。SMRですらこんな状況なので、TDMR採用の壁は相当に高いと思う。


最後に、現在製品化されているハードディスクにはTDMR採用機種が存在しないが、WD傘下のHGSTから出ている「Ultrastar DC HC530」がTDMRに関する技術を採用している。

Ultrastar DC HC530
https://www.hgst.com/products/hard-drives/ultrastar-dc-hc530

上記サイトでダウンロード出来るデータシートにはこう書かれている。


 “ Features like TDMR technology (two-dimensional magnetic recording) and a third-generation dual-stage microactuator work together to enhance head-positioning accuracy and deliver better performance, data integrity and overall drive reliability, critical in multi-drive environments where operational vibration is present. ”


この一文から読み取れる事は、TDMRに関する技術を使ってヘッドの位置決め精度を向上させているという事だ。
日本国内のパソコン関連情報サイトにはTDMRを採用していると誤認したかのような記事があったが、「Ultrastar DC HC530」の用途を考えてみてもTDMRの採用はありえないと思う。


現在史上最大容量である14TBのハードディスクは、WD(HGST)、Seagate、東芝の3社から出ている。

これらの内にSMRを採用した機種がある一方、同じ14TBの容量で通常タイプ(SMRを使っていない)のハードディスクも存在し、つい先日には一般向けNAS用の14TBハードディスクが東芝より発表されたりもしている。

SMR採用機種の記憶容量が通常タイプと同じである以上、SMRの技術的課題はかなり残っており、TDMR登場の時期もまだ当分先の話ではないかと感じる。


参考:

磁気記録媒体の現状と展望
https://www.fujielectric.co.jp/about/company/gihou_2012/pdf/85-04/FEJ-85-04-314-2012.pdf

SMRのSSD的書込み挙動
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

HDDのSMR技術とはなにか
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2014-12-15


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