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12VHPWRコネクタについて [ハードウェア]

久しぶりのブログ記事は、12VHPWRコネクタについて書こうと思う。

年が明けてもう2ヵ月以上経った今、この話はとっくに賞味期限が切れているとは思うが。

昨年12月の頭にはこの記事を書き終わって投稿するつもりが諸般の事情で不可能となったのだが、この件に関しては特に、書きかけのままで終わりたくはないと思ったので、今になって改めて記事の足りない部分を書き足し、必要な部分は大幅に書き直してブログに上げる事にした。

なお、昨年11月に私が調べた時点で米国のコネクタメーカー「Amphenol」のサイトには12VHPWRのコネクタに関する情報が出ていたため、図面を含むこれらの情報は記事を書く上で大変参考になった。

興味のある方は「Amphenol」のサイトを訪れてみてほしいと思うし、さらに情報が欲しければ製品名「Minitek Pwr CEM-5 PCIe Connector」で検索してみるのも良い。


以下、その記事。


GeForce RTX 4090搭載ビデオカードの12VHPWRコネクタ焼損事故多発で有名になった12VHPWRコネクタ。

NVIDIAの調査ではビデオカード付属の「PCIe電源コネクタから12VHPWRコネクタに変換するケーブル」に問題があるとか、利用者がコネクタをしっかり奥まで差し込まない事が原因であるというような結果らしいが。

実際には12VHPWRコネクタの設計そのものに“も”問題があると、私は考えている。

12VHPWR_con.jpg
今回記事を書くための資料として買った、CORSAIR製 PCIe-12VHPWR変換ケーブルのコネクタ部の写真。ピンボケはご容赦願いたい。


12VHPWRコネクタの抱える問題

まずは問題となったビデオカード付属のPCIe→12VHPWR変換ケーブルの問題点を並べる。

1.変換ケーブルの12VHPWRコネクタが12VHPWR規格の仕様に準拠していない。

  当初この根拠は私の知識と経験だけであったが、その後以下の記事が掲載されて証明された。
  
  PCI-SIG、12VHPWRコネクタに関してメンバー企業に注意を喚起
  https://news.mynavi.jp/techplus/article/20221202-2527419/
  
  一言でいえば「コネクタの品質が悪い」のであり、これは端子の作りや材質も含まれる。
  特に端子に関しては材料に銅合金を使う以上、合金の組成や熱処理、加工方法や完成品の
  寸法精度、メッキなど全てに問題があったとしてもおかしくはない。

2.コネクタとケーブルの接合方法が基盤への半田付けという事に問題がある。

  この問題は先述の1に関係するが、昨今のビデオカード形状に絡んでケーブルの取り回しが
  しにくい原因となって、コネクタに本来ありえない負荷がかかって端子の接触不良を誘発する
  可能性を高める。

3.コネクタの大きさに対してケーブルが太すぎ、コネクタへの負荷荷重が大きい。

  この問題は2に絡む問題であり、2と同様に接触不良を誘発する原因だと私は考えている。


次は12VHPWRコネクタの規格に関する問題。

1.コネクタが小さくて操作しにくいため、中途半端な挿入になりやすい。

  これについては説明不要と思うが、この問題はPCIe規格の電源コネクタも同じかさらに悪い。
  この問題はビデオカード側の設計も絡むので、一概にそうとも言えないのかもしれない。
  ただし、コネクタの接続操作とは無関係だが、コネクタを小さく作るには端子の小型化が
  避けられないため、端子の接点容量が小さくなるという問題の原因にはなり得る。

2.コネクタの接点容量が足りない。

  規格上最大600Wに対応する12VHPWRコネクタは、12本のピンで600Wを賄う。
  これは端子のピン一本当たり8A以上の電流が流れる事を意味する。
  今回問題になったRTX 4090は最大400W程度の消費電力で、ピン一本で5.5A以上。
  しかも複数の端子で電流を流す場合、全ての端子が同じ電気抵抗で接続されているわけでは
  ないので、流れる電流は端子毎に違う。従って12本の内には6A以上流れる端子もあるだろう。
  そもそも端子と接続する電線の断面積と比べて1/4以下の断面積しかないピンで、接点部分の
  接触も4カ所とはいえ全て点接触という事も考えるとコネクタの端子は相当に発熱するはず。
  この発熱が約200℃まで耐えるポリイミド樹脂製コネクタハウジングの強度を落とさない範囲で
  あれば良いが、もし超えた場合ケーブルによる負荷荷重で端子の位置がズレるとさらに発熱し、
  最悪短絡する事もあり得る。(熱はビデオカード基盤やケーブルなどに逃げるが、それも限度がある。)
  また、端子の発熱は一定以上になると端子のバネ特性を失わせる。
  バネ特性を失った端子は当然に接触不良を起こし、発熱増加→焼損、となる。
  ちなみに普通は規格に準拠した高品質なコネクタなど、自作パソコンの部品には使わない。
  だからなおさら安全係数を十分に取った設計に変更すべきだ。
  ちなみにAmphenol製の12VHPWRコネクタは端子一本当たり9.5A!流せる事になっている。
  ああ、恐ろしい。

3.コネクタの強度そのものが足りない。

  あれだけ小さなコネクタなので、多少温度が上がっただけでコネクタハウジングの強度や剛性が
  足りなくなって変形してしまう可能性も考えられる。
  変形すれば当然にピンの接触に影響が出て、以下略。
  注意深い者ならば、ビデオカードの取付け時に電源ケーブルの取り回しに細心の注意を払い、
  コネクタに余計な力がかからないような取り回しをしたり、ケーブルをビデオカードのコネクタ
  以外の物で固定・・・例えばケーブルを止めるためのステーを追加するなどしてこれにケーブル
  の荷重のほとんどを負わせて、コネクタには一切荷重がかからないようにする。
  だが多くの場合、まったく気を使わないか、気を使っているつもりで実際は考えているようには
  なっていない事が普通だ。
  だから、コネクタハウジングも端子同様安全係数を大幅に取った設計が必要だと私は思う。
  昨今はビデオカード用のケーブルも太く、本数が多なって、重く、硬くなる傾向が強い。
  この問題は気付いていない人がほとんどだと思うが、設計者はこれを意識して設計すべきだ。


番外。

パソコンの内部に使われる電源用コネクタの中には、品質が悪い物がかなり多い。

中にはコネクタを接続する時にコネクタハウジングからピンが抜けてしまう物があり、これが単に接触不良で電流が流れないだけならば良いのだが、中途半端に抜けて接触自体はあるような場合、これが原因で焼損が起きる事がある。

また、ピンが抜けない場合でもオスとメスのピンが平行に挿入されない場合があって、これが端子の変形を招いて接触不良を起こし、発熱から焼損に至る場合もある。

さらに、ハウジングの材質や精度などが悪く、コネクタ自体が壊れた事も経験している。

電気はとても怖いものだ。

パソコンが壊れるだけならばまだ良いが、これが火事になって家が全焼、ともなればどうだろうか。
(まあコネクタハウジングやケーブルの被覆のほとんどは焼損しても炎が出ない自己消火性のある樹脂が使われているから、火事になる事はまず無いとは思うが・・・絶対にそうならない、とは言えないし、条件次第とはいえ実際に炎が出る事も無いわけではないので)

関係者全てに言いたい。

この問題を甘く見るな、と。



参考:

続・12VHPWRコネクタについて
https://17inch.blog.ss-blog.jp/2023-03-14

グラボの電源コネクターが変わる? 大電力に対応する新規格「12VHPWR」
https://ascii.jp/elem/000/004/088/4088881/

Intel ATX 3.0 16-pin Power Connector for PCIe Gen5 is Smart, Has Four Power-Delivery Variants
https://www.techpowerup.com/292563/intel-atx-3-0-16-pin-power-connector-for-pcie-gen5-is-smart-has-four-power-delivery-variants

PCIe Gen5 "12VHPWR" Connector to Deliver Up to 600 Watts of Power for Next-Generation Graphics Cards
https://www.techpowerup.com/287682/pcie-gen5-12vhpwr-connector-to-deliver-up-to-600-watts-of-power-for-next-generation-graphics-cards

Minitek Pwr CEM-5 PCIe Connector System
https://www.amphenol-cs.com/product-series/minitek-pwr-cem-5-pcie.html

Amphenol FCI Minitek Pwr CEM-5 PCIe コネクタシステム
https://www.mouser.jp/new/amphenol/amphenol-minitek-cem-5-pcie-connector-system/

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