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3Dプリンターは万能ではない [ハードウェア]

私はJB PRESSというサイトの記事をよく読むのだが、先日、そのサイトから毎日届くメール中に「中韓露にも遅れる日本、3Dプリンター軍事転用を急げ」という記事のタイトルが目に付いた。

曰く、「兵站が脆弱な日本の防衛には3Dプリンターの軍事転用が必要だ」との事。


その兵站に関して、記事で例が挙がっているのが以下(要約)。

・ロシアの兵器プラットホームである「アルマータ」で試作生産に3Dプリンターが活用された
・韓国軍では入手難や製造中止になった兵器の部品が3Dプリンターで製造されている
・英国やポーランドでも、戦闘機部品製造などにおいて3Dプリンターの軍事転用が進んでいる
・中国では近い将来3Dプリンターを活用して、ミサイルの部品を発射現場で製造したり、
 艦艇等の故障・損害も現地で修復するようになる


筆者はこうした他国の例に対して自衛隊での導入が遅れている事が心配であるようだが、その心配には現実に対する根本的な誤認という問題がある。

そもそも3Dプリンターが一台あればなんでも作れるわけではない。仕様上製造が可能なモノであっても、必要な材料や仕上げに必要な工具などは膨大であり、それを工場や研究施設でもなんでもない普通の軍事基地(或いは海上艦)で運用する事はあまりにも現実離れしすぎている。

現場でミサイルの部品を製造など、では材料はどうやって供給するのか、という話になり、あまりにもバカげている。
しかもミサイルは機械部品だけで出来ているわけではない。弾頭やロケットモータに必要な火薬、レーダーや誘導制御用のコンピュータ、電気配線に必要なケーブル、動翼や偏向ノズルを作動させるための電動モータ、組み立てに必要なボルト類。これらも全て3Dプリンターで生産するつもりなのか。

仮にこれらを部品で在庫するにしても、3Dプリンターを稼動させるために必要な、機械部品の材料になる膨大な種類の金属或いはプラスチックの粉末、それらを積層する時に使う不活性ガス、金属粉を溶かすレーザーを励起させるための電源、こうしたものを3Dプリンターでは製造できない部品と共に兵站の中に組み込む必要がある
記事を書いた人は、現地生産のために必要な物資の在庫管理や生産に必要な機器類の維持管理の手間が、どれだけ現場の足を引っ張るのか想像できないのだろう。


さらに記事を読むと、ミサイルなどの弾薬が日本国内の極めて限られた集積所から防衛対象の尖閣などの離島まで運ぶのに時間がかかるとか、そもそもミサイルや弾薬の備蓄が少ない事を兵站の脆弱さであるとしているが、それならば兵站のシステムを見直して必要な場所に必要な備蓄をする方がずっとマシだと思うのは私だけだろうか?

恐らく「兵器の補修部品、砲弾やミサイルなどの弾薬を現地生産」という、あまりにも非効率的過ぎる事を夢想する人は、材料や部品が地面から勝手に生えて来るものと思い込んでいるに違いない。それに精密機器のカタマリであるミサイルの組み立てが現場で可能なのかどうかという問題もある。部品がマトモでも組み立てが悪ければ発射しても飛ばないとか普通にあり得る話なので、そういった問題もクリアする必要があるが、そういう事すらも無視しているのだろう。

現場で応急的な工作が必要なケースが存在する事は認めるが、ものには限度というものがあるのだ。(なのであくまで応急的な工作のための3Dプリンター活用は是非進めるべきと思う)


昔、子供の頃観たアニメで、「ロボットの体内でミサイルが製造されているのでいくら撃っても弾切れにならない」という設定があったのだが、今回の記事に書かれた主張はそれと同じレベルの幼稚な話である。

ちなみに軍事転用可能な3Dプリンターの技術は、日本国内ではすでに民間企業が世界最先端の技術を持っていて、すでにロケットや航空機の部品製造にその技術を活かしている。この分野の技術力は恐らく世界一だと思われるので、そういう意味では何も心配はないと思う。


中韓露にも遅れる日本、3Dプリンター軍事転用を急げ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46130



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