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パソコン用メインメモリの動向 [ハードウェア]


パソコン用メインメモリといえばDRAM。

そのDRAMの世界シェア8割弱(2018年Q1)を持つ韓国企業はDRAMの生産に必要な材料の一部を日本製に頼っていて、これまで輸出の審査が簡略化されていたものが取り消しになった事で、7月の時点で一部の識者達からDRAMの値上がりを予想されていた。

しかし実際にはDRAM需要の低迷が続いていて、DRAMを製造する企業は数か月分の在庫を抱えているうえに、輸出規制と言われている輸出管理強化も三星やSKのDRAM製造になんの影響も与えていないため、9月現在もDRAMの価格は下がり続けている。


一方パソコン用の部品としてDRAMが売られるには、DRAMのチップを基盤に取り付けてメモリモジュールにする必要がある。

そのメモリモジュールの価格は、主にオーバークロック製品の品不足と値上がりがしばらく続いていた。

これは一部デマによる買占めや販売者側の戦略的値上げ、そして第三世代Ryzenの発売による需要の盛り上がりで一時的に品不足になった事が理由だ。

従ってメモリモジュールの需要のほとんどを占めるパソコン製造メーカーへの売値はほとんど変化しないか、若干下がっているものと思われ、値上がりしたのはメモリモジュール単体での小売店販売のみという事になる。


さて、そんなパソコン用メインメモリだが、2021年頃からDDR5の普及が始まる見込みだ。

現在はDDR4が主流だが、あと1年半~2年半程度で主流の座から降りる事になる。

そして現在MicronがDDR4の新しい製造プロセス“1Z nm”による大量生産を開始、これによりモジュール1枚当り最大16GBである一般のパソコン向けメモリモジュールが、最大で32GBになる可能性が出てきた。(1Z nmプロセスのチップは一個当り16Gbitの記憶容量を持つから、それが16個でモジュール当り32G Byte)

ところが、である。

Micronによると、“1Z nm”は主にモバイル向けとサーバー向けチップしか生産予定が無い。

要するに一般的なデスクトップやノート型のパソコン用チップが無いのだ。

となると一般のパソコン用メモリモジュールには、何かの間違いでも起きない限り現在主流の“1Y nm”プロセスによって製造されるチップがDDR4が終息するまで使われ続けるだろう。(“1Z nm”以外の既存生産ラインは今後DDR5用に置き換えられていくかもしれない)


このように“1Z nm”のチップがモバイルとサーバーだけに使われる理由は簡単に推測出来る。

まずモバイル向けは、単純にコストダウンが可能になるからだ。

“1Y nm”のDRAMチップは一個当り8G bit = 1G byte。つまりメインメモリが「4G byte」のスマートフォンを製造するには4個のチップが必要になる。一方“1Z nm”ならば一個で16G bit = 1G byte。チップは半分の2個で済む。

単純に言えばメモリのコストが半分になるわけだ。(他にはSoCに組み込まれたりCPUの直近に実装する関係から、デスクトップ用モジュールほど動作周波数や消費電力に対する余裕が不要=開発に必要な時間が少なくて済む、という事もあるかもしれない。)


そしてサーバー向けの場合はメモリモジュール一個当りの容量増加が目的だ。

サーバーは用途によってメインメモリがとても多く必要だ。あまりにも多く必要なので、DRAMの代わりにNAND Flashを用いて容量を稼ぐなんて事までやっている位だ。

だから、“1Z nm”ならば単純に今の2倍の容量を持つメモリモジュールが製造出来るので、サーバー用の需要があるわけだ。


その点一般向けのパソコンはメインメモリの容量は4~8GBが主流であり、16GB以上を必要とする需要が少ない。(自作界隈は16GB辺りが中心的な需要かもしれないが、そうではない市場は違う。)

だからチップの数を減らす必要も無ければ、より多くの記憶容量が必要という事も無い。

従って枯れた“1Y nm”プロセスを使い続ける方が合理的という判断になるのだと思う。


まあそんなワケで、今年に入ってから標準でDDR4-3200のモジュールも出回るようになったし、今後のパソコン用メインメモリはDDR5に切り替わるまでモノ的にはほとんど変化しないだろう。

価格については来年まで需要が戻らないという予想があるので、その通りになればまだ数ヶ月は値下がりする可能性がある。


ちなみに余談ではあるが、日本国内最後のDRAMメーカーであった「エルピーダメモリ」が2012年にMicronによって買収されたが、その後エルピーダの工場と従業員はそのまま残され、つい先日も広島にあるDRAMの工場が拡張されて新棟の建設が竣工され、2019年末には“1Z nm”によるDRAMの製造が始まるという。

そして元エルピーダである、現マイクロンメモリジャパンの社長はこんな言葉を残す。

「Micronになってよかった」


参考:

「Micronになってよかった」という言葉の重さ
https://eetimes.jp/ee/articles/1907/08/news070.html

エルピーダを潰した男
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2018-06-15

Micron、業界初“1z nm”プロセスのDDR4メモリ量産開始
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1201956.html

マイクロン、広島工場の拡張工事を完了 - 年末より1Znm DRAMの生産を計画
https://news.mynavi.jp/article/20190612-841736/

Micron、1Znm世代のDDR4の量産を日本と台湾で開始
https://eetimes.jp/ee/articles/1908/30/news045.html

DRAM価格は今年後半も下落が継続、回復は来年以降の可能性
https://news.mynavi.jp/article/20190611-840850/

メモリ不況の夜明けは近い、市場動向から見たDRAMとNANDの挙動
https://eetimes.jp/ee/articles/1906/17/news021.html

DRAMは価格下落の模様、あくまで予想ではあるが
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2019-08-02

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