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SMRの一般向けHDD [ハードディスク]

かつてSeagateの3.5inchハードディスクで初めて採用され、一般のパソコンやNASで使った人達からあまりに故障の報告が多かった、SMR採用ハードディスク。

近年はSMRだからといって故障したという話はあまり聞かないが、書き込み頻度が多い使い方、例えばギガバイト単位の大きなファイルを書き込むとか、ファイルを一度に数百数千と書き込む場合に大幅な速度低下が起きる特性は変わりない。※後年大きなサイズのファイルの書き込みは、シーケンシャル書き込みのアルゴリズムの改良によって完全に解消されている)

これはSMRの宿命であり、SMRを使う以上避けえない事だが、アーカイブ用途のように一旦ファイルを書き込んだ後にほとんど書き込みは行わない場合には容量が増える事のメリットの方が大きい。しかし、一般のOSやアプリケーションを使う用途では重大なボトルネックになるので、これまでそのような用途向けハードディスクにSMRが採用される事は無かった。

ところがここ1~2年の間にSeagateから一般向けのハードディスクでSMR採用機種がいつの間にか出ていて、今年は東芝からも出ているようである。


ここでSMRを採用したハードディスクについて簡単に説明しよう。

SMRを採用したハードディスクの場合、書き込み時に複数のトラックをまたがって記録ヘッドが書き込みを行い、関係のないトラックを上書きしてしまうため、複数のトラックをひとまとめ、過去の説明ではブロック、現在では「バンド」というらしいが、この複数のトラックに対し1番目のトラックから最後のトラックまで、テープのようにシーケンシャルな書き込みしか出来ない(読み込み時は一般のハードディスク同様ランダムアクセスである)。

また書き込みにはSSDに似たプロセスが必要で、書き込む前に一旦書き込まれるバンド全てのトラックを読み込んで上書きが不要なファイルを別の場所に移動させたり、或いは読み込んだデータの一部を書き換えて元の場所に書き戻すという動作が必要になる。

この辺りの説明は以下のSeagateによる説明が詳しい。

Seagateのシングル磁気記録で容量の壁を超える
https://www.seagate.com/jp/ja/tech-insights/breaking-areal-density-barriers-with-seagate-smr-master-ti/


こうした書き込み動作のためにSMRのハードディスクはキャッシュメモリ(DRAMやNAND Flash)を大量に載せていて、一旦ファイルをキャッシュに保存する事でパソコンを操作している人間に対し速度低下を認識させないのだが、キャッシュ容量を超える書き込みが発生すると速度低下を隠せなくなる。
また、キャッシュされたファイルの処理には時間がかかるため、サイズの小さなファイルを大量に書き込むような場合にもハードディスク側の処理が追いつかず、大幅な書き込み速度低下を起す。

特に、現在のWindows(7~10)に使われているNTFSは「ログファイル」やMFT(マスターファイルテーブル)と呼ばれるファイルが存在し、ファイルが一つ書き込まれる度にログファイルやMFTも更新(上書き)される。ハードディスクやSSDでファイルを一度に数百数千と書き込むと著しく書き込み速度が落ちる原因の一つであるが、これがSMRのハードディスクでは致命的なボトルネックになってしまう。

サーバー向けSMR採用ハードディスクでは、膨大なデータ処理をハードディスク本体の貧弱なCPUと少ないキャッシュメモリではなく、サーバー本体の高性能なCPUと大容量のメモリで処理する事で速度低下を防ぐ方式が取られているが、一般向けの安価なパソコンでこれを行う事は現実的ではなく、全てハードディスク内で処理する方式に留まっている。


こうした事情から、SMRを使ったハードディスクは“通常の使い方”には適さない事が理解出来ると思う。
SMRはあくまでも“倉庫用のハードディスクに適した技術”なのだ。

にも関わらず、Seagate製を中心にいくつかのハードディスクがSMRを採用していて、しかも販売時にSMR採用を明記していない。

今年の4月頃から販売の始まった、3.5inchで2TBプラッタを用いたSeagateのバラクーダシリーズや、2.5inchの一部ハードディスクがこれに該当する。


SMRを使った一般向けハードディスクの型番(2018年10月現在)

Seagate 3.5inch
ST8000DM004、ST6000DM003、ST4000DM004、ST3000DM007、ST2000DM005

Seagate 2.5inch
ST2000LM007、ST2000LM015、ST3000LM024、ST4000LM016、ST4000LM024、ST5000LM000

東芝 2.5inch
MQ04ABF100、MQ04ABD200


以上。

これら以外にもあるかも知れないが、今の所私が確認できたのはこれだけだ。


このように一般向けのハードディスクにSMRが採用され始めた理由はいくつか考えられるが、書き込み時のデータ処理方法にこれまでのノウハウから一般向けでも利用可能と判断出来るだけの進歩があったと思われる。

しかし根本的な問題が解決したわけではないため、実際には極度の速度低下という問題が発生する事は目に見えている。

現在それを窺わせる報告がいくつか存在するが、一方でこの問題を否定する報告もあるためにWeb上の情報から判断する事が難しい。


私としては、SMR採用の一般向けハードディスクは当面様子見するつもりだ。

今後従来型記録方式(CMR)のハードディスクが減っていく可能性もあるので、ハードディスクを新たに買う必要性が生じた場合、購入機種の選択にはこれまで以上に注意を払う必要があるだろう。



※略語解説

SMR(Shingled Magnetic Recording)
瓦記録と訳される新しい記録方式。ハードディスクの容量をCMRのおよそ25%増加させる事が可能だが、引き換えに著しいランダム書き込みの速度低下が起き、無理にランダム書き込みが多い用途に使えば思わぬ障害が起きる可能性が高い。主に一旦データを書き込むと書き換えがほとんど発生しない用途に適する。

CMR(Conventional Magnetic Recording)
従来記録と訳すSMRの対義語で、SMRの登場により作られた造語。
当然、SMRが世に出る前には存在しなかった言葉である。

PMR(Perpendicular Magnetic Recording)
垂直磁気記録と訳す。21世紀初頭、これまでの水平方向に磁化する記録方式(LMR)では記録密度の限界に達したため、代わりに登場した記録方式。2004年に東芝が初めて製品化、販売開始された。PMRという略語は2004年の初登場以来ほとんど一般に使われる事が無かったが、近年理由は不明だが使われる事が増えたようである。

LMR(Longitudinal Magnetic Recording)
内磁気記録と訳す。PMRの対義語として作られた造語。
ハードディスク発明当初から使われた、水平方向の磁化でデータを記録する方式である。
CMR同様、PMRが世に出る前には存在しなかった。



参考資料

HDDの大容量化をけん引する瓦記録技術
https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2015/08/70_08pdf/a08.pdf

2 章 ハードディスクドライブ - 電子情報通信学会知識ベース
http://www.ieice-hbkb.org/files/08/08gun_02hen_02.pdf

世界最大記録容量1.5TBの3.5インチハードディスク出荷開始
http://www.sdk.co.jp/news/2017/26893.html

パソコン用ハードディスク大容量化の歴史
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2015-09-28

SMRのSSD的書込み挙動
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

二次元磁気記録(TDMR)
https://17inch.blog.so-net.ne.jp/2018-08-04


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