AMDの新型APU“Carrizo”

去る11月20日、AMDは現行のノート向けAPU“Kaveri”の後継になる“Carrizo”(カリッツォ)と、エントリーノート向けの“Carrizo-L”を発表した。

この新しいAPUについての詳細は各メディアの記事に任せるとして、ここでは「これが一体なんなのか」について考えてみようと思う。


まずはBeemaの後継になる“Carrizo-L”から。

Carrizo-L は去年の5月に出たKabiniに使用されているJaguarコアの、改良版であるPumaをさらに改良したPuma+を採用している。よって同じ“Carrizo”のコードネームを与えられながら“-L”の付かないCarizzoとはまったく別のAPUとなり、HSA1.0にも対応しない。

またCPUコア部分が同じならGPUコアも先代のBeemaと同じGCN系であり、ARM Cortex-A5系のセキュリティープロセッサーも同様に内臓されている点を見ても、一体何が変わったのかを見つける事が難しいAPUとなっている。

他には一部でモバイル向けとの説明があり、タブレットPCにも搭載されるという話があるが、TDPが最低でも10Wある事を考えると、タブレットPCに搭載するのは少々無理があるように思う。
まあ、Carrizo-Lの“L”はLow-endの“L”だと思えば良い（本当は違うけど）。


次はKaveriの後継になる“Carizzo”。

中身のCPU部分は“Excavator”(エキスカベータ)と呼ばれるコアで、その正体はネーミングの「掘削機」という、重機系な事からも想像出来るように相変わらずBulldozer系コアの改良版である。
GPUコアもKaveriと同じ系統になり、アーキテクチャー的にはただ単に先代のKaveriにARM Cortex-A5のセキュリティープロセッサーを追加しただけに見える。

しかし外見はそうであっても大幅な改良が施されているようで、AMDの説明では消費電力あたりの性能はKaveriの２倍にまで上がっているそうである。まゆつばモノの説明ではあるが。
少なくとも製造に使われるプロセスが28nmに据え置きなので、実際にAMDの説明通りの性能（同じ消費電力ならKaveriの2倍）なのかは実物を触ってみるまでは期待できないと私は思う。

他には特徴として、ノート向けのCarizzoはSoCとして提供されるという点がある。
SoCというのは「システム・オン・チップ」の略で、必要な機能が全てワンチップに統合されている事を表す。つまりKaviniに必要だったサウスブリッジが不要になるわけで、この事は消費電力削減とコストダウンにかなり効く。
これは少なくともバッテリーの持ちについてはそれなりに伸びるようになると思われる。
価格については昨今のノートPCがかなり低価格な事を考えると、企業の利益率に反映されるのみで店頭価格にはほとんど影響しないと思う。


最後に、CarizzoとCarizzo-L両方に共通して関係する事について。

製造プロセスは双方とも先代と同じ28nmのままだが、一応は先代よりも改良されたものを使うようだ。なので同じアーキテクチャのコアであっても、動作周波数は多少上げて来ると思う。TDPが先代と同じ事を考えても、最高動作周波数が上げられている可能性を想像出来る。
そういう意味では周波数が上がった分だけ性能が上がるという解釈が出来るかもしれない。
だが製造プロセスの点でいえば競合となるIntelのチップが14nmに移行してトランジスタ数を大幅に増やして来る事を考えると、性能面でかなり不利になると思われる。

※11/24修正、製造プロセスの記述について、“TSMCの”を削除。


セキュリティープロセッサーの機能については、今の所具体的な内容が乏しい情報しか得られていない（私の勉強不足）。
今わかっている事だけ書くと、メインのx86系コアとは別のメモリー空間をセキュリティプロセッサに与える事が出来るので、そこでデータ処理をさせる事で不正なプログラムからの干渉を受けずに動作できる。
ちなみにこの機能の事を“PSP”と呼ぶようだ。

しかしこの機能が具体的にどのような仕組みになるのかは、半年前すでにセキュリティチップを搭載したBeemaが出ているにも関わらず仕様がまだ定まっていないらしく、（組込向けはともかく）少なくとも一般消費者向けの対応するソフトウェア環境も出ていないために現状ではまったく意味が無いようである。


以上、“Carizzo”について私なりの解釈を書いてみた。
登場時期は2015年前半とか中盤までにとか、あやふやな事しかわからないので、夏頃に出れば予定通りという感じか。

最近のIntelの発表と比べるとあまりにも貧相に感じる今回のAMDの新型APU発表だが、まあこんなものだろう。